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平成10年4月吉日

坂 部 長 正 先生
PEC01137@niftyserve.or.jp

酒 井 俊 一
PEB00734@niftyserve.or.jp

前略, 金沢医大の電子カルテ見学記を書いて見ました。なるべく多くの方に読んでいただきた いと思います。なお、この文の内容については、金沢医科大学/医学情報センター/シ ステム管理部の監査を受けております。


去る3月13日に金沢医科大学病院の電子カルテシステムを見学させていただき大変有意 義でした。特に医療情報センターの職員、開発に携わられた先生方の強い信念と指導力 には深い感銘を覚えました。

T先生の説明の中からキーワードを取り上げておきます。

  1. 私たちの電子カルテシステムはそれ程大それたものではなく、旧来のカルテの量が 増したため、保存と検索が困難になったので何とかしなければと必要に迫られたもので す。

  2. 医師としてオーダーエントリだけやらされるのでは馬鹿らしいので、電子カルテシ ステムも一緒に開発することにしました。

  3. 現在は紙のカルテ保存が法規上必要ですから、電子カルテの内容を印刷して挿綴し ています。もし、印刷せずに挿綴もしなければ、カルテを書かなかったのと同じになり ます。

  4. 電子カルテは一時保存をしておき、48時間以内であれば呼び出して追加修正する ことができます。48時間を経過しますと自動的に永久保存となり書き替えもできなく なります。

  5. 電子カルテの入力支援としてテンプレートも用意していますが、冗長すぎて能率が 悪く、むしろ辞書機能を利用した自分専用あるいは診療科専用の短文とかフォーマット を作成しています。バイタルサインの入力などは表形式のテンプレートが便利です。
    したがって、電子カルテシステムの機能はいろいろ工夫されていますが、ユーザーから 見れば、機能のよいワープロと表計算です。

  6. 再診患者の場合は病名、前回検査の結果、前回処方などが自動的に画面に表示され るようにし、できるだけ目的画面に到達するタッチ数を少なくするよう工夫しました。

  7. オーダーエントリだけの場合は患者に背を向けて入力することになり、患者の疎外 感が問題です。電子カルテシステムになりますと患者と一緒に画面を見ながら入力し、 また説明をしますので、インフォームドコンセントもスムーズになります。
    患者が座る前に病名、前回検査、前回処方などを見ておきます。もし患者に見せたくな い情報があれば、その部分を一時隠すこともできます。

  8. 入力に時間がかかるのは初診患者だけで、再診患者は非常に早くできます。トータ ルとして見た場合は時間が節減できます。後利用まで含めて考えれば優劣の差は明らか です。

  9. 電子カルテを便利とされる先生は紙のカルテの時代に丁寧に手書きをされていた先 生方です。もし3分診療をされていた先生はもともとカルテを書かれていなかったわけ ですから電子カルテは無理でしょう。
    問題は電子カルテシステムにあるのではなく、その先生の診療形態にあると思います。

  10. 電子カルテになりますと、医師の診療を客観的に評価できるようになります。いわ ゆる医療監査です。
    しかしそれも利用の仕方が問題であって電子カルテの責任ではありません。


私は後日、お礼状と共にメーカーに対する苦言も含めて書面を送りました。その一部を 紹介します。

私は3年前まで香川医科大学医療情報部長を勤め、在任中の12年間、随分苦労いたしま した。御存知のように国立大学ですから、レンタル料と言ってもハード代だけでソフト 代はゼロです。すべての開発はメーカのサービスに頼らざるを得ません。

学内に専門家のポストはなく、各部署のボランティアを集めた混成軍です。事務官は2 年毎に交代しますので、その都度初めから説明せねばなりません。
勢いメーカーの持参した欠陥だらけにパッケージを使わざるを得ません。私たちの時代 はDoctorMainが出たところでした。各サブシステムが別の場所で作られるため画面の色 彩もデザインもばらばらでした。それを何とか統一するところから始まりました。
ユーザーからのリクエストは200通にのぼりましたが、最初の1年間は対応してもら えず、その後少しづつ改良されました。

私はある時、医療情報システム研究会(今回見学会をした研究会)で、この改良した諸 点をリストアップし、メーカーには次回のバージョンアップに際して、これらの改良点 をすべて取り入れてもらうように要望しました。
1年後にどの点をパッケージに取り入れたかをメーカーに尋ねました。返事は約2割程 度は取り入れたが、後の8割は香川医大の特殊な部分だから取り上げなかったと言われ ました。

私たちは他の施設でも便利に使っていただくことを楽しみに改良を加え、研究会でも発 表しているのですが、それが次の時代に生かされないのが残念でなりません。
マスター類の移譲も同様で、強いて言えば院長宛の一筆の依頼書と雑誌発表時などに1 行の謝辞があれば十分であるとも申しました。

私が退官する頃(3年前)東大病院でEasyMainのデモがありました。確かに画面はスマ ートになりましたが、私たちが考えた各種のチェックシステムは殆ど取り入れられてお らず、いわば垂れ流しの入力に終わっていました。
メーカーのコメントは「このシステムは中病院向きだし、安価でよく売れているからこ れでよいのだ」と言うことでした。中病院だからこそ忙しい中での入力ですし、使い易 い操作性と十分なチェックが大切であることを強調いたしました。
それを導入された病院の先生方はお気の毒なことだと感じました。

その晩の懇親会では、金沢大学のH様が同じような発言をされていましたので非常に心 強く思いました。


これに対し金沢医科大学病院医療情報部のO様からE-mailをいただきました。

拝復、兼六園の百花繚乱が待ち遠しいこの頃です。
さて、先日は手前どもの拙いシステムを見ていただきまして、たいへん光栄かつ恐縮に 存じました。

酒井先生のお手紙を拝見して、まこと、私たちのシステムが先達の御苦労の積み重ねの 上でなんとか動いていることを、身にしみて感じました。

私自身、13年前の医事システム導入に際して、酒井先生と同様の辛苦を経験したこと がありました。ホストコンピュータに他の業務システムを沢山積み込んでいたために長 年間競合がなく、特定メーカの好意にすがってシステム開発せざるを得なかったのです 。

今度は、ホストコンピュータの上で医事会計システムに相乗りしていた他の老朽化した 業務システム8系列を、2年間で逐次パソコンLANへダウンサイジングし、ホストを 丸裸にしてから、4社に対して、本学病院が希望する新システムの基本仕様説明会を持 ち、各社から特徴を提案し価格性能を競ってもらいました。

そのため開発中は、契約当初予想できなかった双方の考え違いが明らかになって揉めた ということはありませんでした。

その結果、メーカーのパッケージ性能は向上したはずです。
蓄えたノーハウは他のユーザーで役立てばよいと、酒井先生と同様の自負を私たちも共 有いたしました。
しかし、本学病院のシステムはまだまだ成熟してないとも思っています。私たちはこれ から、酒井先生の御好意と御助言を忘れずに、今のシステムを育てて行きたいと思いま す。

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