金沢医科大学システム見学記


耳鼻科情報処理研究会,他各位

かねて希望していた金沢医大情報システムを坂部と川合の二人で見学する機会を得ましたのでここに見学記をお送りします。内容の一部は金沢医大医学情報センター大石勝昭氏のご了解を得ています。システムの詳細についてのご質問は大石殿 (oishi@kanazawa-med.ac.jp)に直接お願いいたします。

10月5日坂部長正


金沢医大情報システム見学記 坂部長正(鈴鹿医療科学大医用情報工学科)

日時:1999年9月16日
病院規模:外来1300人/1日平均、1013床.

  1. システム計画:
    昭和47年開学、平成5年から7年にかけてそれまでメインフレームで稼働していた各種の部門システ ムをパソコンLANシステムに逐次ダウンサイジング開始、医事システムを残して平成8年秋,オーダエントリ機能を含む電子カルテシステムを構想し,同年まずフルオーダシステム(全18オーダ)稼働、平成10年12月には,既存の病院部門システムと機能連携する電子カルテシステムを,我が国大学病院では初めて本格稼働した。
    電子カルテ導入の目的:
    カルテ収納・出庫・搬送システムが陳腐化し更新するための巨額の経費を節約し,また,開院以来の1患者1カルテ方式によるカルテ管理業務の煩雑さを電子ファイリングで解 消することであった。当時,大規模な電子カルテシステム稼働の前例がなかったので,コンピュータメーカーと共同開発し,オーダエントリーシステムの延長上で独自の電子カルテシステムを開発し、順次拡大して現在に至っている。
  2. システム概要:
    病院の電子カルテ系(部門システムを除く)は、メインフレーム1台、部門インターフェースサーバー27台、パソコン 端末350台(FMV-NT6200)、 オーダサーバー(OS:UNIX,DB:Oracle7), マルチメディアサーバー(OS:WinNT4.0,DB:Oracle7), オーダエントリーパッケージ:EGMAIN for Windows. イントラネットシステムLAN:155Mbps,
  3. 電子カルテシステム:
    医学情報センターを中心として非常に知識とパワーのある開発プロジェクトスタッフ(医師、看護婦 、放射線・検査技師、事務職SE等)が推進者となり,各部門・各診療科毎に新運用機能の設計・調整を行った。まず、各診療科毎にもっとも標準且つ代表的なカルテサンプルの提出 を求め、その記述内容を精査し標準書式の立案を行った。その結果,どのカルテにも共通している項目をSOAP(S: Subjective主訴など、O: Objective所見など、A: Assessment評価 など、P: Plan治療計画など)に分類できること、その多くはテンプレート又はフリーテキスト形式で入力可能である点に着目した。プルダウンメニューなどの機能を多用し出来るだけ簡単に容易に1画面で入力可能なように工夫してある。テンプレート入力が面倒な場合は,ショートカット機能による定型文修正方式を奨励している。 放射線画像は、CT,MRI,CR,RI画像を読影録の別画面で表示可能。各種の加工や電子カルテ画面への編集表示が可能である。スケッチ入力は定型シェーマ、手書きシェーマと修正、色塗り、所見文字入力も可能であるが、普通のお絵かきソフト(ペイント)なのでやや時間がかかる。なお、カラー写真等はスキャナー、デジカメによって簡単に取り込め、ECGは測定値として取り込み、プログラムで静止画像に展開するが、EEGは診断名のみ入力可能。これらは全て電子カルテとしてオーダシステム画面と一緒に又は分けて表示可能。表示は全て標準パソコン端末のCRTを使用している。 現在は、内科医師を中心とする電子カルテ推進プロジェクトと並行して,健康管理センターの医師と看護婦が電子カルテ情報を医療面で活用する研究を進めている。
  4. 人間ドックシステム:
    健康管理センター・医学情報センターが開発した独自のシステムで、電子カルテ画面を利用し良くでき て いる。特に特殊な診療情報暗号化Web登録サービス(1年1.5万円)をしていて、本人又は 代 理人(IDとパスワードを本人から教えられた初診医師)だけが、インターネット端末さえ有れば世界のどこからでも情報参照が可能で、海外出張等の場合好評であると。
  5. 看護支援システム:
    パッケージNsMAINを利用し、看護ワークシート・当直引継シートなど多彩な資料を作成することが 出来る。看護診断導入を計画中。
  6. 評価:
    オーダ情報、電子カルテ構成主要素SOAP、シェーマ、画像,ECG静止画・同診断名、EEG診断名など を1画面に表示し、テンプレートを主としたSOAP入力・編集・変更の容易性も相まって、プロ グレスノートの利用率が現在内科診療科で80%,外科系診療科で40%であり,オーダエントリーと入院 サマリー利用率は100%である。最も問題になっていたテンプレート方式の欠点も気配りのある項 目分類と その細分の設定により臨床系のおおよその要求をカバーしている。放射線画像の再現性も 普通のパソコンのCRTに表示しても診断上おおむね使用できること、ECGやEEG等のアナログ情 報は そのオリジナルを全ての場合に必要とせず診断名入力で充分役立つこと、オーダ・電子カルテ・ 画 像等の医療情報表示に普通のPCの低価格CRTを使用している事などが特筆すべき点である 。医師個別の好みや入力特性の有る表現を利用者毎に登録可能のように工夫を凝らした、実用面を重視した電子カルテシステムである。また,市販アプリケーションソフトを多用して開発経費を低く押さえてある点なども評価できると思われた。それにしてもこの準備と開発にかけた労力は並大抵ではなく開発スタッフの熱意に敬服する。

金沢医大電子 カルテシステム見学記   川合正和(山形南陽市立病院耳鼻科)

  1. 全体的評価
     優れた電子カルテシステムとはシステムとして優れている以上に、電子化への現場の 抵抗が最小限で済むシステムであることが望ましい。その点において同大のシステムは極めて優れたシステムと評価される。
  2. 経過記録のテキスト部分の入力
     同大の入力の基本形はワープロ機能(MSIMEが標準だがATOKも可、個人辞書機能あり ) であるが、新しい点は前回受診時のカルテの文章が、そのまま新しいカルテ画面に自動的にコピーされることである。
     慢性疾患等では、毎回の記載内容がそう変化しないことも多い。喘息を例に取れば、記載される内容(喘息発作の回数、日常生活への影響度 、血圧 、etc)は前回の診察時にも記載されており、自動コピーされた内容に修正をかけること により記載の省略化が達成される。別な言い方をすれば、自分自身の前回診察時のカル テ記載をテンプレートとして使用すると言うことである。同大の堤医師によれば、「消 化器内科なら消化器内科の全員が納得するような固定したテンプレートを作ることは困難であり、またそのようなテンプレートを作ったとしても不満だらけになる、それなら ば自分の前回記載をテンプレートとした方が合理的だ」と言うことであった。本方式の メリットは、あらかじめ作って登録しておくテンプレートと異なり、症例に応じ医師に 応じて臨機応変に変化することである。また、医師が本システムに熟練し、記載のパタ ーン化が完成してくれば、それをテンプレートとして医師個人が覚えやすい名前を付け て登録(ワープロの短文登録のイメージに近い)することにより、よりいっそうのパタ ーン化、省略化を達成することも可能である。
     逆に欠点もまたいくつか上げられる。 まず従来のデータベース入力に対応して作られたテンプレートと異なり、情報が自動的にデータベース化されないことである。この欠点に対しては、経過記録をテキストとして扱い、特定の文字列を検索することによりデータベース化が可能という。この場合、血圧、BP, B.P.,などの同じ内容に対して各種表現が 存在し、検索しづらい事態が生じる。これに対し、堤医師は「自分たちの研究していることを考えればすべての症例をデータベース化する必要はなく、手間はかかっても必要なときだけデータベース化する方式の方が全体として効率が良い」と言うことであった。また、変化の乏しい慢性疾患を多く扱う科は良いとして、耳鼻科のごとき慢性疾患の 比率の少ない科ではさほど利点が得られないことである。実際に同大のカルテ電子化の達成度を見た場合、内科で著しく(80%)、耳鼻科、精神科で低いと言うことであった 。
  3. 画像入力の状況  画像電子化についてはワコムのタブレット、スキャナー、デジタルカメラによる取り 込み等を考えており、各科の特異性に合わせて電子化の方法を選択して欲しいと言うこ とであった。  形成外科について言えば、手書きの図に対する執着が強かったが、スキャナーもしく はデジカメにより高精細で取り込むことを条件に了承を得たとのことであった。堤医師 の各科に対する協力要請の決めセリフの一つが「先生の科の最高のカルテを持ってきて 下さい。そのカルテが電子化できれば良いんですね。」というものであったが、この言葉に多くの科が納得されたようである。
     形成外科がスキャナーによる電子化で了承した背景には、同科が患者一人一人へのて いねいな説明を旨とし、患者の絶対数がそう多くないためスキャナー入力の手間がさほど問題とならないためと考えられる。耳鼻科はおそらく形成外科の3倍以上の患者数と 予測され、立派な図が書けると同時にすばやくかけることが要求される。現実的なのはタブレットと考えられるが、経過記録電子化による労力増は内科に比し数倍と考えられる。 ○精神分裂病への対応  未だ明確な方針を見ないようであったが、分裂病の患者に対してだけは紙ベースで診療を行い、電子カルテ用にスキャナー方式で電子化するのも一策ではないかとのことであった。私見であるが、精神科にかかっている分裂病患者数が100人程度であればその科の中でカルテ管理することも一応可能であると考えられる。この場合、カルテの中央管理の波には逆行するが、全体の運用を考えればこのような診療科の内部での対応策を取ることも必要になるかと考える(この部分はあくまで私見)。
  4. 電子カルテ化と診療の質の問題
     医者がワープロを打ちながら患者を診た場合、診療の質が落ちるのではないかという主張に対しては、今ひとつ噛みあった議論がなされなかった。内科系では省力化できた分、診療の質が上がったのではないかとの事であった。外科系の実施はこれからでありまだ答えは出ていないようであった。この部分に関しては、医療の本質に関わる問題でありながら容易にはわからない問題である。
  5. 今後への方向性
     2000.1より同大は全科電子カルテ化を達成し、病院としてペーパーレスに近い状態で運用することが決定済みの方針であると言うことである。その過程において幾多の新たな問題の発生が予想されるが、それらに対しても対応策はあるはずとの推進メンバーの見解であった。
     推進メンバーの方々の発想は驚くほど柔軟であり雄大であった。一部に重い負担を強いられる科があるとしても、全体としてのメリットがあれば余力を負担の増加した科に廻す等の対応により、特定の部門への負担増は一時的なものとすることが可能であろうと言うことであった。
     同大のシステムは現実にぶつかりながら成長を続けるシステムであり、固定した観念で捉えないことが得策と考えられる。ここまでタフなプロジェクトを作り上げたスタッフの力量と思いの深さに、深く敬意を表したい。